ミュージカル”イリュージョニスト”
開演までに、これほど障害があったミュージカルも珍しいのではないかと思う。
もちろん、昨年来、新型コロナの影響で、ミュージカルに限らず、様々なエンタメにも大きな影響が出ており、休演を余儀なくされている舞台も数多くある。
それだけでなく、この公演は、当初主演が予定されていた三浦春馬氏の不幸があり、そもそも実行されるか否かから議論された演目だった。
別の役に配役されていた海宝さんが代役で主演、海宝さんが演じるはずだった役に別キャストを宛てておこなうことになったが、もともと2020年12月から今年にかけて上演されるはずだったのが1月から2週間程度の上演スケジュールとなって、優先販売をおこなった後にスタッフがコロナ陽性となって稽古の時間がおおきく削られ、本来の演出ではなく「コンサート形式」に変更された。
それでもスケジュールギリギリで稽古をしていたところに、緊急事態宣言の発布。
やむなく、上演期間を前半2/3ほど中止とし、たったの3日間、マチネ×3回とソワレ×2回の5公演のみで上演されることに決定された。
ここまでしても、完全中止にしなかった理由は、やはりこれが世界初演・ワールドプレミア公演ということが大きかったのだろう。
私は、チケットを娘の分と2席、優先で手に入れていたのだが、あえなく中止になってしまい、ぶっちゃけて言ってしまうと、前評判もわからなかったミュージカルよりも、今月前半に観た別の舞台を再度観たかったこともあって、返金されたチケット代をそちらのチケット代にまわせるということで、「まあ、仕方ないか」という気持ちでいた。
しかし、やはりどうしても気になって、キャンセル分の座席をわずかながら一般発売するという情報を得て、執念でインターネット予約をした結果、なんと初日のマチネ、つまり世界中で初演の初舞台のチケットを手に入れることができた。
もとから持っていたチケットは三列目センターだったうえ、GO TO適用で2,000円引きだったものが、8列目サイド席な上に定価になってしまったのだが、この際致し方ない。
感染対策を十分にされている舞台(軽食の販売も一切なく、グッズ販売すらない)だったが、自分自身も不織布マスク+フェイスシールド(上演中ははずした)+抗菌手袋という重装備で、職場で昼食をとってから、トイレも飲食も一切しないという徹底ぶりで観てきた。
事前にチラホラと舞台稽古の一部(歌)を配信していたとおり、耳にのこるメロディ、主要キャストの歌唱力の高さはすばらしかった。
また、コンサート形式と言っても、セリフもノーカット、ダンサーもあり、衣装も小道具も動きもほぼちゃんとやっており、部分的に抽象的な表現になっていたりしただけなので、逆に歌と台詞に集中できる結果となり、このバージョンをそのまま残してもいいのではないか、という感想だった。
ただ、私は舞台や歌に関しては相当辛口な自覚がある。
あえて言わせていただけるなら、プロだし今回のキャストは歌に関しては定評がある人たちばかりなので、「技術的に上手に歌えるのは当たり前」
で、そこから「+α」があってこそ、本当の感動があるのだと思っている。
しかし、ギリギリのスケジュールだったからだろうか、どうにもそれが不足していたように思えた。
困難を乗り越えて上演しているので、熱量はすごいし、それはビンビンに伝わってはきていたのだが。
まだあまりこの舞台に関してSNS等で感想をあげている人は少ないが、読めるだけひろって読んでみても、「大変さを乗り越えてすばらしかった」「歌がうまかった」「泣いた」とあるが、「おもしろかった」という感想はみかけなかった。
今月私が観た別の舞台は、終演後出口に向かって歩いている最中でも、感情をこめて「すごいおもしろかったね」というセリフをそこかしこできいた。
感動とは、心が動くことで、「困難を乗り越えてできたからすごい」とか「難曲を歌いこなしてすごい」ではない。上演までの背景など関係なく、舞台そのものに対して純粋にこころが震わされることだと思う。
ただ、ストーリーも曲も配役も、かなり良かったのは間違いがないので、今後この状況が落ち着いたなら、どうか、ベストの状態で再度この公演をしていただきたいと切に願う。
たったの3日間の公演でも、全公演中止にしなかったのは、次に繋げるためだったのではないか、と思うので。